「人生は思い通りにいかない」と彼女は自分に言い聞かせるように言った。
こだわりのマシンで豆から挽いて入れたコーヒーの香りが部屋に漂う。ラテアートがなかなかうまくいかないのだと言って出されたコーヒーは、確かに表面が崩れた雲みたいになっていたけれど、とても美味しく午後の贅沢なひとときの演出を買って出ていた。
自分のちっぽけな想像のうちに収まらないからこそ人生は面白く、そして広がっていくのだと思うのだけどな、と私は口には出さずに心のうちで呟く。
多分、私は彼女にかなうものなんてほとんどない。
こだわりの台所用品、お洒落な食器達、体に良さそうな食材をふんだんに使った美味しい料理。
エクササイズで引き締まった体。勤勉さ。人への気遣い。
たぶん。
たぶん、彼女は自分の身の回りの事、自分の目標なんかを、ちゃんと達成してきたのだと思う。
だから、時に自分の頑張りではどうにもできない出来事に遭遇すると、突然人生の舵取りを奪われた気がして無力感に苛まれるのだ。
かたや、私は。
自分のしたいこと、やりたいと思ったことに真っ向から向かい合おうとすると、まだ始まったばかりのうちからプレッシャーに襲われ、疲れ果てることがよくあった。
料理、服選び、整理整頓、、
周りもやっているように見えることをなんで私はこんなに大変な思いでしないといけないのかと悩んだ時もあった。
私にとって人生は初めから自分の手に負えるものではなかった。
無力だからこその学び。
諦めからの学び、気付き。
人生とは不思議なものですね。
bee happy